経営戦略とマーケティングは混同されることもありますが、実は経営戦略の一部にマーケティングがあるという関係です。
経営戦略の構成要素として全社戦略・事業戦略・機能戦略の3つがあり、マーケティングは機能戦略の一部といえます。
マーケティングに用いられるSTP分析・AISAS・4P分析といったフレームワークは、経営戦略を支える役割の一翼を担っていると捉えてよいでしょう。
例えば、顧客ニーズに寄り添った戦略策定や限られたリソースの効率的な活用、戦略の軌道修正を適切に実行するにはマーケティング戦略が欠かせません。
この記事では、経営戦略とマーケティングの違いと関係性について解説します。
経営戦略の構成要素
経営戦略とは、企業が長期的な目標を達成するために策定する計画や方針のことを指します。
より具体的に表すと、経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)の分配を最適化するための戦略といえるでしょう。
経営戦略は「全社戦略」「事業戦略」「機能戦略」の3要素から構成されています。
各要素について詳しく見ていきましょう。
全社戦略
全社戦略とは、企業全体が進むべき方向性や方針を指しています。
企業のミッションやビジョンを起点として、取り組むべき事業ポートフォリオを決定することが主な目的です。
経営資源の配分は、事業ポートフォリオにもとづいて決定されていきます。
通常、全社戦略を先に決定し、後述する事業戦略へと落とし込んでいくケースが多いでしょう。
一方で、個別の事業戦略が先に出そろい、各事業戦略を統合して全社戦略を策定するケースも少なくありません。
事業戦略
事業戦略とは、全社戦略を実行するために必要な各事業領域での方針や計画のことを指します。
事業ごとに市場の状況や競合他社の動向をリサーチし、自社の強み・弱みの分析を通して差別化を図ることが主な目的です。
全社戦略が「絵を描くこと」だとすれば、事業戦略では「描いた絵をどう実現するか」が問われます。
事業戦略が十分に練られていなければ、経営戦略を実行に移すことができません。
経営戦略の中でも、事業戦略は特に重要な位置を占めているといえるでしょう。
事業戦略の立て方や策定のポイントを解説|フレームワークで効率的に立案しよう機能戦略
機能戦略とは、各事業部門の機能別の戦略を表しています。
例えば、営業戦略や人事戦略といった機能ごとの活動は、機能戦略によって決定されるのです。
機能ごとに目標を達成することが事業戦略の達成につながり、事業戦略の達成が全社戦略の達成へとつながります。
事業戦略が「部」としての戦略、機能戦略が「課」としての戦略と捉えるとわかりやすいでしょう。
マーケティングは機能戦略の一部
マーケティングとは、自社の商品・サービスを市場や顧客に届けるための計画や活動のことを指します。
経営戦略の3要素のうち、機能戦略を構成する要素の1つと捉えてください。
機能戦略を実行するための活動は、「マーケティング活動」と「後方支援活動」に分けられます。
それぞれの役割を押さえておきましょう。
マーケティング活動とは
マーケティング活動は「マーケティングミックス」と呼ばれる4つの要素から構成されています。
4つの要素(4P)とは、Product・Price・Place・Promotionです。
- Product(製品戦略):どのような商品・サービスを提供すべきか
- Price(価格戦略):商品・サービスをいくらで提供すべきか
- Place(流通戦略):商品・サービスをどのようにして顧客へ届けるべきか
- Promotion(プロモーション戦略):どのようにして販売を促進すべきか
4Pの各要素を詰めていくことにより、マーケティング戦略を具体化していきます。
マーケティング活動は、4Pが組み合わされた複合的な活動と捉えてよいでしょう。
後方支援活動とは
マーケティング活動が顧客と直接関わる活動であるのに対して、後方支援活動はマーケティング活動を支援する活動を指します。
例えば、部材調達や研究開発といった活動を抜きにして、マーケティング活動は成り立ちません。
機能戦略を構築する際には、マーケティング活動と後方支援活動の両面から計画を策定していくことが大切です。
マーケティング活動に用いられるフレームワークの例
マーケティング活動では、さまざまなフレームワークが活用されます。
経営戦略のうち、特に機能戦略への理解を深めるためにも、主要なフレームワークに対する理解を深めていくことが重要です。
マーケティング活動に用いられるフレームワークの例を見ていきましょう。
STP分析
STP分析は、ターゲットの特定と自社の差別化ポイントを見出すためのフレームワークです。
STPはセグメンテーション・ターゲティング・ポジショニングの頭文字に由来します。
- セグメンテーション:消費者の属性に応じて市場を細分化する
- ターゲティング:自社がアプローチすべき層を見極める
- ポジショニング:ターゲットに訴求する自社の差別化ポイントを明確にする
マーケティング活動では「誰に」「何を」訴求するのかを明確にすることが非常に重要です。
STP分析は「誰に」「何を」の各要素を手順を踏んで浮き彫りにしていくためのフレームワークといえるでしょう。
AISAS
AISASは、カスタマージャーニーを把握するためのフレームワークです。
カスタマージャーニーとは、顧客が購買に至るまでの行動・思考・感情のプロセスを指します。
AISASは次に挙げる5つの要素から構成されています。
- Attention(注意):商品やサービスの存在を知る
- Interest(関心):商品やサービスに対して興味を持つ
- Search(検索):インターネットで検索し、情報を収集する
- Action(行動):資料請求や問い合わせ、購入といった行動を起こす
- Share(共有):商品やサービスを利用した感想を発信・共有する
商品・サービスを購入するまでの段階のみならず、購入後の情報の流れにも着目している点がAISASの大きな特徴です。
ポジティブな感想を発信・共有してもらうことにより、さらなる顧客獲得へとつながる可能性があります。
4P分析
4P分析は、顧客とのタッチポイントを設計し、最適なアプローチ方法を決定するためのフレームワークです。
4PはProduct・Price・Place・Promotionの頭文字を表しています。
- Product(製品):商品の特徴やメリット
- Price(価格):商品の提供価格
- Place(流通):商品の提供場所・提供方法
- Promotion(販促):広告・広報・店頭での売り出し方
4の要素で構成される「売れる仕組み」の構築をマーケティングミックスといいます。
前述のSTP分析で「誰に」「何を」を決定し、4P分析で「どのように」を決定する、と捉えるとよいでしょう。
経営戦略を支えるマーケティング戦略の役割
マーケティング戦略は、経営戦略を支える重要な柱の1つといえます。
経営戦略の中でマーケティング戦略が果たす主な役割は次のとおりです。
顧客ニーズに寄り添った戦略策定
現代社会の大きな特徴として、顧客ニーズの細分化が加速している点が挙げられます。
市場にモノやサービスが行きわたり、消費者は必要に迫られて購買を検討するとは限らなくなっているからです。
スマートフォンの普及率が高まり、WebサイトやSNSなど多岐にわたる情報収集の手段が提供されていることも一因といえます。
かつてのように、企業側が自社商品を一律に宣伝しているだけではモノやサービスが売れない時代になりました。
より顧客ニーズに寄り添った経営戦略を策定するには、きめ細かいマーケティング戦略が欠かせないのです。
リソースの効率的な活用
マーケティング戦略を策定し、戦略に沿って施策を講じていくことは、ヒト・モノ・カネ・情報の効率的な活用につながります。
ターゲットを絞ったSNS広告の配信により、広告費の削減につながるのは好例の1つです。
ターゲットに対するアプローチ精度が高まるほど、事業活動で発生するムダを抑えられます。
結果として限られた経営資源でより多くの収益を確保できるのです。
マーケティング戦略は、経営戦略を効率よく実現する上で重要な要素といえるでしょう。
経営戦略の軌道修正
経営戦略は計画どおりに進行するケースばかりではありません。
想定外の市場の動向に見舞われたり、見落としていた顧客ニーズや競合他社の強みに後で気づいたりすることもあるでしょう。
前述のとおり、マーケティング戦略は経営戦略のうち機能戦略の一端を担っています。
マーケティング戦略を構築し直すことにより、経営戦略の軌道修正が可能になるのです。
現代のように変化の早い時代においては、戦略変更の小回りが利くことは大きなメリットといえます。
経営戦略の立て方・役立つフレームワーク・策定時のポイントを解説まとめ
経営戦略の構成要素である全社戦略・事業戦略・機能戦略のうち、マーケティングは機能戦略の一部といえます。
マーケティングへの理解を深めることが、経営戦略への理解を深めることにもつながるでしょう。
経営層や管理職だけでなく、現場で活躍する従業員もマーケティングへの理解を深めていくことが重要です。
マーケティングに強い組織を目指すことにより、経営戦略をより深く理解して自走する組織の構築が実現しやすくなるでしょう。
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